大切なもの
 


「綾香ちゃんも早いね」

「あー…、はい」

「いきなり誘ったのに来てくれてありがとね」

「いえ」

「まさかオッケー貰えるとは思わなかったよ」

「…そうですか?」

「いやー、やっぱ美人だね」

「…いえ、全然」


…そこで二時間ぐらいどうでもいい話ばっかしてた。


なんであたし食事に誘われた時「行きます」って言ったんだろう。こんなにどうでもいい話が聞きたくてここに来たんじゃない。

空也の結婚の事忘れたいのに。この人の意味の分からないお喋りなんか右から左へ聞き流す事しか出来ない。


「あの、もうそろそろ出ましょうか?暗くなってきたし」

「あ、あぁ。出ようか」


そう言うと、その先輩はレシートをサッと取ってから一人足早にレジへ向かう。


「あ、あのっお金!」

「いや、俺から誘ったしいらない。」


店を出ると、「じゃあここで」って言ったあたしにその先輩は「送るよ」って言った。


今のあたしにはもうそれを断るのも億劫で、面倒臭かった。

あたし、こんな面倒臭がり屋じゃなかった筈なのに。


帰り道でも、その先輩はずっと喋ってた。それにあたしは軽い相づちを打ってた。



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