大切なもの
空也に肩を掴まれてる先輩の顔は、苦しそうに歪んでて。
それだけでどれだけ空也の腕に力が入ってるのかが分かる。
「…っ、誰だよっ。痛ぇ」
「出てけよ、無理強いなんかする奴にコイツは任せらんねぇよ」
――不意に涙がこぼれ落ちる。
空也はあたしの家族として、「任せらんねぇよ」って言った。
それだけの事、なのに――
嬉しくて、涙が出て。それでも胸は切なくて。
一体、どうすればこの気持ちは消えてくれるんだろう。
先輩はあたしを申し訳なそうに見ると、「…綾香ちゃん、ごめん。また今度会いに来るわ」そう言ってから空也の腕を外して何故か空也に一礼をしてから帰って行った。
…兄弟なんだって、分かったんだろうか。
閉められた玄関のドアを見つめたまま、そう思った。