大切なもの
「……俺、」
「…聞きたくない、帰って」
「聞けよ、綾香。こっち向け」
空也の腕があたしに伸びてくる。
「…触んないで、帰って…お願い」
空也はもうとっくに前に進んでるのに――あたしだけが置いてきぼり。
いつかの、空也の「好きだ」が頭の中で蘇る。
もう、その言葉があたしに向けられる事はない。
あれが最後だなんて――思いたくなかった。
抱き締められたのもあれが最後。
切羽詰まった声で「好きだ」とキスしてくれたのもあれが全部最後。