大切なもの
「…空也、好き…」
泣きながらキスの合間にそう溢すけど。空也は曖昧に笑っただけだった。
あの時みたいに、好きだと返してくれる事はない。
「…そんな事言うなよ」
「…好き」
「こっから連れ去りたい」
「………」
「…って、留学行く前からずっと考えてたけど」
「………」
「好きだよ。――皐月」
…空也は、残酷だね。
嘘でもいいからあたしに、綾香に。愛してると言って欲しかった。
抱き締める空也の力は今まで以上に強くて、切なくて泣き出してしまいそうだった。