大切なもの
 


「空也、あたしね――」

「ん?」


綾香がそう言ってから口許を緩ませる。

何だろうと期待していた俺に、落ちてくる言葉達は俺にとっちゃ残酷なものだった。


「年が明けたらね」

「うん?」

「結婚する事になったよ」


そう嬉しそうに言う綾香に俺は言葉が出てこなかった。

もう綾香の中には俺はいない。


そう考えるだけで頭を鈍器で殴られた様な感覚が走る。


――あぁ、なんだか意識が遠のいてきた気がする。目の前にいた筈の綾香も、いつの間にか居なくなってて――



「ねぇ、空也!聞いてる!?」

「…あ、あぁ…」

「空也!」

「何だよ…、聞いてるって」

「空也ってば!」

「んー…」

「起きてよ、遅刻するよ!?」


その声はさっきの綾香じゃなくて、皐月のもんだった。




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