翡翠幻想
水汲み
 はぁ、と桂桂は小さな自分の手を吐息で温めた。

 そろそろ梅花の咲く頃とはいえ、早朝の空気は冷え冷えとしており、その中での水汲みはきつい仕事であった。

 本来、姉の仕事である水汲みだが、その彼女は昨日から体調を崩している。

 代わりに自分が頑張らねば、とこの小さいこどもは健気にも思っているのだった。

 身の丈に会わない木桶を井戸の脇に置き、釣瓶を落とす。

 重くなったそれを力いっぱい引き上げると、縄が擦れて掌がじんじんと痛んだ。

 気を抜けば、自分が井戸の底へと引き込まれそうである。

「んっしょ……」

 やっとの思いで釣瓶を引き上げ、木桶へ中身を移す。

 ここで失敗して零してしまうと苦労が無駄になる上に、水を無駄にして、と怒られることになるので、慎重に行った。

 飛沫が長袍の裾を濡らし、細かい水玉模様を描く。
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