翡翠幻想
 桂桂は座り込んだまま男を見上げた。

 随分と背の高い男だった。

「大哥は、お医者さんなの」

 彼が知る医者といえば、各地を旅しながら治療を行なう者たちばかりで、皆、長旅に肌は焼け、衣服が汚れていた。

 目の前にいる男は、しみ一つ無い白い肌をしており、癖のない髪は黒々としている。

 その衣服は、銀や金の糸が織り込んであるのではないかと思わせるような、煌びやかなものだった。

「医者ではない。が、きっとお前の姉を治して見せよう。そうと決まれば、そなたの家に案内してもらわねばならぬ。立つが良い」

 昨日の男も、今日の男も、同じように立派で同じように得体が知れなかったが、桂桂は姉を診てくれるというこの男に一抹の希望を抱いた。

「水を汲むから、ちょっと待って」

 釣瓶を引き上げようとすると、その縄を横から伸びた男の手が奪った。

「引けばよいのか?」

 言いながら、やすやすと満杯の水を汲んだ。

「う、うん。……謝謝、大哥」 
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