翡翠幻想

 家に行く間にも、水の入った木桶を男は持ってくれた。

 だからと言うわけでもないが、桂桂は男に知らず知らず好意を持った。

(このひとなら、ほんとうに姐姐を治してくれるかもしれない)

 木戸をあけて家の中へ入ると、珠明が体を起こそうとしているところだった。

「姐姐!だめだよ、起きちゃっ」

 慌てて傍に寄る。

「だいじょうぶ、だいじょうぶよ……」

「だめだってば!ほら、横になって」

「でも……」

「おとなしく寝ていなさい」

 弟にばかり働かせるのを心苦しく思う珠明を、男の声が止めた。

「あなた様は……」

 珠明は疑問と不安の綯い交ぜになった顔で、男を見上げた。

「そなたを診に来たのだ。姉の具合がよくなれば、その孺子が我が翡翠を返してくれるというのでな」

 男は寝具の傍らに座り、珠明の薄い肩に手を掛けて寝かせた。

「心静かにしておるが良い」
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