翡翠幻想
 数日後、珠明は役人が用意した絹の衣に身を包み、馬車に乗って郷を出た。

 馬車は権力の証であり、普通、庶人は一生乗れるようなものではない。

 叔父夫婦や郷の人々は、羨望の目を以って珠明を見送った。

 ただ一人、桂桂だけが何かを堪えるような顔で、じっと遠ざかっていく馬車を睨み付けていた。


 馬車がすっかり見えなくなると、叔父夫婦はまず桂桂の手から、もぎ取るように賜物を取り上げた。

「儂らが今までお前たちを養ってやったからこそ、珠明は県令の側女になれるのだ」

「お前のような孺子に、こんな立派なものはいらないでしょう。私たちが預かっておきますからね」

 華美な賜物に、もともと桂桂は執着など何も無かった。

 ただ、珠明が遠いところへ行ってしまったという、尽きることの無い悲しみが胸に広がっている。

 蹴飛ばされるようにして部屋へ追い立てられ、桂桂は一人でまた泣いた。

 今頃、珠明も馬車の中で泣いているだろうか。
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