翡翠幻想
救出
珠明は薄暗い部屋で、力の抜けた体を牀に預けていた。
郷から県府までは遠く、馬車でも数日掛かった。
慣れぬ旅に疲労したということもあるが、なによりも珠明は残してきた弟のことを思うと、胸が痛んだ。
県令に与えられた広い部屋は、天井が高く、牀に榻、卓子といった調度品は何から何まで傷一つ無い、豪華なものが揃っている。
しかし、何一つとして珠明の心を浮き立たせるようなものは無い。
他の郷から集められた娘たちの中には、目を輝かせ、自らの浴する栄誉に頬を上気させる者もいたが、珠明は少しもそんな気分に離れなかった。
自分と同じように不安に顔を曇らせ気落ちした娘たちと言葉を交わし、何とか気を張ろうとしたが、途中で部屋を離されてしまい、それも叶わなくなった。
ここに来て以来、着るものも食べるものも上等なものを与えられているにも関わらず、珠明は自分が萎れていくのを感じていた。