翡翠幻想
翡翠の宮殿
「これは、夢ではないのかしら……」
我が身を嘆くあまり、都合の良い夢を見ているのではないかと、珠明は呟いた。
隣では、桂桂が同じように首を傾げている。
「夢だとしたら、ぼくと姐姐と、一緒の夢を見ているの?」
二人は今、県府など足元にも及ばない、豪奢な宮殿の中にいた。
その床も、壁も、柱も、天井も、うっとりとするような翠緑色をしている。
翡翠の宮殿。
人の世では、到底、在り得なかった。
「夢ではない」
笑気を含んだ男の声が言った。
今は人の形をしているが、本性は雄大な体の持ち主であることを、もう姉弟は知っている。
「夢ではないぞ、私も、そなたらも、現実に此処にいる」
男が奥へいざなうように、珠明の手を取ろうとしたので、彼女は我に返って退いた。
胸の前で手を組み、頭を下げて揖礼を施す。
「二度もお助けいただき、ありがとう存じます。このお礼を、どう申したらよろしいのかわかりませぬ」