甘く、響く。【密フェチSS】
甘く、響く。

音が好き。

しとしとと雨が降る音。目を閉じると、世界は音だけになる。
大嫌いな梅雨も、この瞬間は好きと思えるから不思議だ。

そこに、もう一つの音が加わる。
世界で一番好きな音。
それは、先生の声。

先生は静かに教科書を読み上げる。
頭の奥が、背筋が、じんわりと熱く痺れる。
もう、先生の声しか聞こえない。



授業も学校も終わって、家でごはんを作っていた。
トントンと軽快なリズムで野菜を切る。

「ひかり、今日の授業、聞いてなかっただろ」
「ひゃっ、痛っ」

耳元でいきなり声が聞こえて、あたしはビックリして包丁で手を切ってしまった。

「あーあ。バカだなぁ」
先生は手をあたしの腰に回すと、もう片方の手で血のにじむ指を取った。
彼を仰ぎ見ながら、頬を膨らませる。

「手切ったの、誰のせ……」
続けようと思った言葉は、宙に消えた。

先生が傷を口に含んでいた。
目で追ってしまう。
大好きな声が発せられる唇を。
舌があたしの指を舐める。

「俺の授業をちゃんと聞いてないからだろ?」
「き、聞いてたわよ……」

心臓が跳ね上がる。

「ま、たしかに聞くだけは聞いてたか?」
先生はそう言うなり、あたしを抱き上げた。
「きゃっ」

その背を掴む。
大股でソファに連れて行かれると、そこへ下ろされた。
あたしに覆いかぶさり、耳元で囁く。

「そんなに、俺の声が好き?」

< 1 / 2 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop