天の神様の言う通り、ここは素晴らしい学園ですっ




「わしらはなあ、気に食わぬのじゃよ。臥龍の宿主が、脳天気な小僧であるということが。そうであろう。あの力を以てすれば、人間何ぞ一握りえ。わしら妖怪は、隠れて生きることをせずとも良うなる。わしらは古くから人間の良いように扱われてきた。もう懲り懲りなんじゃよ」

憤怒が、その漆黒の瞳に宿る。皺だらけの狒々の面には、長年受け続けた屈辱に対する、怨恨の念が刻まれていた。

「人間と仲好し子好し何ぞ、奴らは、忘却したのか。我々が無能な人間から受けて来た恥辱を。中今、その念を晴らせる時が来た。此処へおのれを餌に、臥龍を釣る。何、宿主は鰯の様な男であろう」

「あ、……来ないと思います」愛は零す様に、言った。白毛の彼は、片眉を吊り上げる。

「だって、龍太郎先輩、私、あんま会ったことないですし。無理ですよ、無理です。だって、私なんか、そんなに、助ける価値ないですし、」

「奴はそんな腑抜けではないと聞いたが」

「来ないと、…思います」


来ないで欲しい、という言葉は喉の奥に押し込める。何処か後ろめたかったからだ。愛は、自分自身の為に他人が傷付くことを、酷く嫌っていた。だって“私なんか”じゃないか。私如きにどれ程の価値があるのか。私なんて、私なのに。愛は、目を伏せる。アルベルトの背中を、遠くに感じた。


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