天の神様の言う通り、ここは素晴らしい学園ですっ
縛られた後ろ手では、糸も見つけられない。
孤独感に、溺死しそうだった。来ないで欲しい、なんて本当か。本当は助けられることを望んでいるのではないか。本当は心待ちにしているのではないか。嗚呼、何と卑しい。愛は歯噛みする。眼前にいる狒々に、何の言葉も掛けてやれない自分が、到底理想に追いつけなくて。追いつけ、なくて。
「でも、でも、天神の人達は、すてきなんです。みんなみんな、怖いけど、私、怖いけど、でも、みんな、すてきなんです。私の、理想なんです。だから、だから」
傷付けないで。誰も、傷付かないで。奇麗事であるのは知っていた。それでも、愛は狒々を眼差す。彼は赭顔を、歪ませている。愛は、狒々を、救えない。誰も、救えない。寧ろ、傷付けているのは、“私なんか”で。
「ごめんなさい」落とされた言葉は、彼には届かなかった。
「まあ、安心するでな。助けが来なくとも、おのれは顔が良いから、下衆な人間は困らない。精々、可愛がってもらえ」
狒々は緩慢な動作で立ち上がると、少女に背を向けて、扉へと歩き出した。その背中は、重圧な何かを背負っていて。白い体毛が、開かれた扉から滑り込む風に、揺らされた。扉の先には、闇が広がっている、そんな気がして。狒々は闇へ、足を踏み出す。入れ替わりに、柄の悪い男達が、室内に足を踏み入れた。不穏な空気が、部屋の中に充満する。
愛は涙を零していた。理由は、分からなかった。恐怖か、同情か。ただ、静かに泣いた。
「ごめんなさ、い」落とされた言葉は、彼には、届かなかった。