天の神様の言う通り、ここは素晴らしい学園ですっ
愛は真剣な面持ちで、自分の小指を見つめていた。そこには赤い糸が結ばれている。かといって、本人達に効能があるわけでも何でもない。赤い糸を付けることで、一生結ばれるということはないのだ。
この糸の先に居る人物を頭の中で思い描き、愛は顔を真っ赤に染めた。蘇るのは、寒空の下の、触れるようなキス。あたたかくて、一瞬の、柔らかな。
「ふあっ!」何ぞというよく分からない声をあげて、愛はソファーのクッションに顔を埋めた。その様子を見た人物が微笑みながら、紅茶をティーカップに注いだ。ローズ・ヒップ特有の紅色の紅茶から漂う香りに、彼女の鼻がくんくんと動く。
「どうしたの」
この、心地好いテノールの声の持ち主が、奇行の原因なのだが。そうとも知らず、彼──アルベルトは微笑みを顔に浮かべながら、愛の座るソファーに腰掛けた。手にしていたティーカップをソファーの前のテーブルに置く。
ここは、アルベルトの仮住まいである。異世界にある本拠とは別の、まあ別荘のようなものだ。長居はしないから、と金はあるだろうに、質素な部屋に彼は住んでいた。矢張りアルベルトといったところか、そのようなものは微塵も感じさせない家具の配置や装飾である。