失くした何か
―――止めてはいけない
「キレハさん、小食ですねー」
『…普通ですよ』
敬語を止めた時、この生活を楽しんでいると認めてしまいそうで。
「なーキレハ。お前さ、どっから来たんだ?」
『何処でしょうね』
自分が自分じゃなくなりそうで。
「キレハさん、お休みなさーい!」
「あ、キレハお休み」
「しっかり寝なさいよ?」
「布団は干したばかりじゃからな」
「てか、バーさんもお前らも寝ろよ」
『……お休みなさい』
…本能が敬語を止めるな、と教えていた。
とにかく、私は毎日当たり前のように、三食をミルさん達と共にし、挨拶を交わし、他愛の無い会話をした。
そう、“当たり前”のように。
当たり前など存在しないのに。
―――それに気が付くのが、少し遅かったようだ