『若恋』若恋編
舞うホタル
屋敷に戻ると、あまり清潔ではない白衣を着た成田がくわえタバコで待っていた。
「手、やっちまったんだってな?」
「まあな」
りおをそっと下ろして成田の前に座った。
「どれ、見せてみな」
仕方なしに手を開いて見せた。
傍でりおが泣きそうな目で見つめている。
「ふーん。ま、こんなもんだろな」
成田も驚きもせずに灰皿に灰を落とすと治療を施し始めた。
「たいして深くはねえ傷だ。大丈夫だ」
傷口を縫うこともなく染みる薬を塗った後包帯を巻いた。
医療用具が入った鞄を軽々と持ち上げて成田が笑った。
「じゃあな」
「え?もう帰るんですか?」
「俺はこれからデートなんでね。どっかの誰かさんが呼びつけたから仕方なく来てやったんだよ」
片目でウインクして身を翻すと風のように去っていった。
「あれでも気を効かせてるんですよ」
「…榊さん」
「わたしたちも失礼します」
「若を頼むな」
「…仁さん」
榊も仁も俺の指の状態を確認してそれぞれ部屋へ戻って行った。