『若恋』若恋編
「……奏さん、」
車が走り出すとりおが声を掛けてきた。
「奏さん、もしかして熱ない?」
「いや、ないぞ。なんでそう思う?」
「顔色良くないような気がして……ちょっと測らせて」
りおの手が額に伸びた。その手を阻む。
「―――手、熱い」
「………」
掴んだりおの腕を離すと、
「すごく熱いよ」
「気のせいだ」
「榊さん、奏さんすごい熱いの。お医者さんに診てもらわなきゃ」
乗って数分でりおに知られた。
「仁さん、お願い。このままお医者さん行って」
泣きそうなりおが俺を覗き込む。
「ちょっとした風邪だ。後で成田に診てもらうから大丈夫だ」
「ホントに?」
「ああ、」
「約束だよ?」
「ああ」
泣き出しそうなりおを抱き締めたくなる。
誰もおまえに触れてないと確かめたい。
あの夢も幻だと。
あいつも触れてないと。
この手に抱きたい。
想いを必死で抑えりおから視線を外す。