『若恋』若恋編
壁を殴った拳から血が垂れてきても、何度も何度も壁に叩きつける。
「俺はりおを幸せにする義務がある」
「……若、」
「このバカ野郎が手を出せ!」
仁に掴み上げられた手を握りしめる。
力ずくで奪ってしまえば、りおの心は永遠に俺のものにはならない。
心がほしい。
求めることさえ許されないとわかってても。
「若、」
「しばらく独りにしてくれ」
「そんなおまえ見ててできるわけねえだろ」
「頼む」
息を飲む仁と静かに目を伏せた榊が俺を見つめている。
「わかりました。無茶しないように」
「バカ、榊。若をこのままひとりにすんのか」
「わたしは若を信じてますから」
「こんな場面で信じてるなんて使うな。この手みろ!」
コンクリートに叩きつけた拳をぐいと捩る。
「頼む、仁」