『若恋』若恋編
低い声で先を促す。
「…俺は幼い頃から母とふたりで過ごしてきた。
16歳の時に母が病気で亡くなるまでは自分に父親がなぜいなかったのか名字がなぜ変わったのかとか気にしたことはなかった。
…母が死んで悔やみに訪れたひとの中に俺の父親だと名乗るひとが現れなかったならば俺の人生は今とは違うものになっていたのかもしれない」
「………」
「俺の父親だと名乗ったひとの名は―――天宮正」
「ただし?」
「わたしのお父さんの名前…」
りおが小さく呟くと、
ピクッ
仁が身動ぎした。
「その男は小さな女の子を連れていた。小学校入る前くらいの」
「………」
「そうだ。16歳でひとりになった俺は母の弔いを終えると俺はそこから逃げるように悪友のとこに転がりこんだんだ。
今思えば逃げてただけなのかもしれない。
未成年で身内もいない俺にはまともに住めるとこなんてどこも貸しちゃくれなかったからな。
毎日ケンカに明け暮れて腐りそうになってた時に………
若と出会ったんだ」
仁が口角を上げた。