『若恋』若恋編
懐かしい声を聞いているうちに苦い思いが強くなる。
向こうもそう思ったのかもしれない。穏やかに笑んだ気配がした。
『…大神さまの言いたいことはわかっております。こちらでお預かりしているお嬢さんのことですね?』
「ああ。俺の大事なヤツの妹なんだ…どうしても無傷で助け出したい」
言い切ると、向こうも柔らかい口調になった。
『わたしも協力いたします。…女、子供を泣かせない先代とは違い、当代の龍さまは人を人とは思わないお方です。
先代から受けた恩も返し終わったと、……もう十分でしょう』
「―――俺に協力したあとはどうする?」
『さあ、…田舎にでも戻って畑でも作りましょうかね』
「田舎に?」
『娘が眠ってるんですよ』
―――ああ
『ゴールデンウィークには満開の桜が咲いてそれはそれは見事なところです』
そうか。
あの娘は北の田舎に眠ってるのか。
『娘の待っているところへ行ってのんびり暮らしますよ。だからわたしのことは心配なさらないでください』
穏やかな声の主と数年振りにした会話は切なかった。