『若恋』若恋編
宵。
車から降り、正面から堂々とひとり龍神会へ乗り込む。
ビルの内部はそれほど複雑な造りではなく、名を名乗ると龍神会の若き跡継ぎの前にすぐに通された。
前に一度だけすれ違ったことがあったが、会った瞬間に言葉を失った。
―――似てる。
「拐ってきた女を帰してやれ?」
「そうだ」
「冗談でしょ、まだ使える手駒をむざむざ手放したりはしないよ」
「俺が来たら、女は家に帰す約束だったはずだ」
「そんな約束は知らない。した覚えもない」
「く!」
平然と約束を破る顔には勝ち誇った笑みが浮かんでいた。
卑怯な男だと知っていたが掴みかかりたくなる。