『若恋』若恋編
素直には人質は返してもらえるとは思わなかったが…
ちら。
横目で見ると、丸眼鏡をかけた初老の男が眼差しで軽く頷いた。
すぐに視線を戻す。
「俺を捕らえてどうするつもりなんだ?」
「とりあえずはどうもしないよ。目障りな大神奏をどうしたらいいかをこれから考える」
俺と似た男が口角をあげ椅子を揺らした。
「…そうだな、丸井、とりあえずは奥の部屋へ連れていけ」
「はい」
仕立てのいいスーツに身を包んだ丸眼鏡をかけた男が足音もたてずにそばに立つ。
「大神さま、どうぞこちらへ」
小さく目配せして立ち上がる。
りおの妹を助け出す手筈はすでに整っているようだ。
―――頼むぞ、丸井!
密かに頷いた。