『若恋』若恋編
「……お願い」
必死に丸井の手のひらをりおが擦り続ける。
「丸、眼鏡、さん…」
りおの呼び掛けに応えて丸井が閉じ掛けた瞼をうっすらと開けた。
「…向こうで、むすめ、に、会えるで、しょう…かね?」
微かに笑みをこぼす丸井に泣きたいほどの息苦しさを感じる。
「…うん。きっとね」
血だらけの丸井にはりおの手を握り返すだけの力はもう、ない。
りおの目から涙がボロボロ溢れ落ちて止まらない。
「…奏さん、」
りおが丸井を抱き抱えている俺を見つめた。
お願い。丸眼鏡さんの命をこの世にとどめて。
わたしたちを助けてくれてまだ恩返しもしてないの。
「……丸井、約束しただろ。俺が田舎に送り届けると」
「……そう、でしたね…」
ふ、と丸井が微笑んだ。
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