『若恋』若恋編
―――りおを俺にくれ
「……大神さん」
テーブルに広げた婚姻届けの上にいきなり雫がポタリと落ちた。
「……あの子はしっかりしてるように見えてまるで抜けてる子なんです」
「ああ、わかってる」
「……食事を作る時だって漬物切ってもずっと繋がってたりするんです」
「ああ、そんなこともよくあるな」
「……掃除しててもコードに足を取られてよく転んでたり」
「ああ。だからコードなしの掃除機に買い換えた」
「……洗濯機にキッチンハイターいれて斑のシャツになったことも」
「酸素系漂白剤と塩素系漂白剤の違いを榊が教えてたな」
「……だけど抜けてても、他人の痛みがわかる、優しい子なんです」
「それは―――俺が一番わかってる」