『若恋』若恋編
りおは俺の嘘に気づくことなく、そのまま眠りについた。
それを見届けてそっと部屋を離れる。
隣の部屋に入るとやはり成田の女の姿はなかった。
「拓也、そっちは異常ねえか?」
『今のところありません』
「正面の方もか」
『はい』
ここへの出入りは異常は見られなかった。
だとしたら成田の女はどこへ?
一階にいた成田はこの物音に気づかなかったのか?
辺りの気配を探りながら一階に下りていくと、成田の姿がない。
「成田?」
声を掛け探してみたがいない。
いつも壁に掛けてある車の鍵もない。
「ガレージ、か」
突然に脳裏に閃いた。
正面や勝手口じゃない。
ガレージを通れば人ひとり抱えても楽に通り抜けられる。
「前広、ガレージから成田の車出て行ったか?」
『行きました。だいぶ前です』
「その後は?」
『車の出入りはありません』
「………」