『若恋』若恋編
壁にぶち当たり呻いて動かなくなった巨漢。
「ぽぽ大丈夫か?」
「……うん、だい、じょうぶ」
潰されそうになっていた女の血だらけの指を開きガラスの破片を投げ捨てる。
一歩遅かったら―――
これがりおの身に起こったとしたら―――
成田が、俺たちがあと数分来るのが遅かったなら―――
首を振り、現実には間に合って成田の女を取り戻したのだと言い聞かせる。
「成田、悪かった」
「奏?」
「おまえの女が拐われたのは俺のせいだ」
「何を言ってる?」
成田の体が小刻みに震えてるのがわかる。
俺も今ならおまえの気持ちがわかるんだ。
ガラスの破片がどこに突き立てられるはずだったのか。
ガラスの破片で手を切ったばかりじゃなく命そのものが失われてしまうはずだった。
「俺が、」
「奏、おまえは悪くねえ。それにぽぽは無事に取り戻した。それでいいじゃねえか」