『若恋』若恋編
白い花
明け方には病院へ戻り、りおの眠る静かな寝顔を見ることができてほっとした。
シーツの上に流れる黒髪を指ですく。
「………りお」
その頬に触れたい。
けれど、触れるのが怖い。
「若は、りおさんのことを」
「………」
知らない、わからない。
そう言えるならよかったが、知ってしまった。
守るべき女だと。
一瞬ですべてが囚われたと。
「……榊、知ってるか」
「何をです?」
後ろに控えた榊が答えた。
「自分の命より大事なものが出来た時に人はどうなるか」
「……いえ、」
「おまえもいつかわかるんだろうな」
「……若は、……りおさんのことを」
言ってるんですね?
「………」
それには答えず、りおの髪を撫で続ける。