『若恋』若恋編
「これから大神本社へ向かいます」
「ああ。わかった」
「若、あの樹という男がそんなに気になりますか」
「………」
ルームミラーで榊を見ると目があった。
「あの男はりおに惚れてる」
「でも、りおさんは違いますよ」
「なんでそう言い切れる?」
「さあ、なんででしょうね」
含みを持った笑みが俺の視線から外れた。
「りおが誰を選ぼうと俺には関係がない」
ギュッと手を握る。
りおは俺のものじゃない。
自由に空を飛んでいつかは俺の元を去っていく。
それがわかっているから期待はしない。
「いいんですか?りおさんを盗られますよ」
「選ぶのはりおの自由だ」
「素直じゃありませんね、若」
「………」
窓の外を見る。
流れていく景色、緑が濃くなっていく。
日に日にりおの元気になっていく姿が浮かぶ。
リハビリが終われば。
このままりおが狙われなければ家に帰すことも考えなければならない。