『若恋』若恋編
「りおは渡さない」
強い意志が宿る瞳を恐れずに見返す。
人混みの中の喧騒が聞こえなくなる。
渡さない。
「若、りおさんの姿が」
ハッと我に返るとりおの姿が見えない。
「りお?」
人混みに流されて自分の居場所も怪しくなる。
「りお?」
樹も辺りを見回すが見つけられない。
「あ」
藍の浴衣を見つけて慌てて走っていく。
「りお!」
掴んだ肩に驚いて振り向いた女はりおとは程遠かった。
「わりい、人違いだ」
2人目の女も、3人目の女も振り向くと違った。
「仁!」
焦るほどに自分の居場所がわからなくなる。
りおの姿を最後にみたのがオモチャ屋の前だったはず。
「若、りおさんの携帯が」
榊が携帯を差し出した。
グリーンの携帯が土まみれになっている。
土を払うと、
金色の龍が龍玉を持って空を舞っていた絵が見えた。
「りおのだ。これはどこにあった?」
「向こうの分かれ道の辺りに落ちてました」