鮮やかに青いままで
その言葉に、俺はすぐに返答出来なかった。

足を止めた綾桧が濡れないように、俺も立ち止まる。







「…ねえ」





更に低い、少し震えたような声。俺の左袖を掴む綾桧の手に力が入る。


…俺だってそこまで鈍感じゃない。綾桧が何を言おうとしているかくらい、嫌でも分かる。







「……ごめん」



「今日…ちょっと用事あるから」








どんな用事、とでも言われて問い詰められたら俺は返答に窮していた。

だが綾桧はそれをしなかった。俺の制服の袖を掴んでいた右手から、ゆっくり力が抜けていくのが分かった。








「…そっか。それじゃ、また今度」


その声は、いつもの綾桧のものだった。教室で女友達と話しているときの。








「…うん、それじゃ。寄るところあるから」


その時の俺は、最早作り笑いすら満足に出来ていなかっただろう。
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