鮮やかに青いままで
「おまっとさん」


ベンチに腰掛けて待っていた俺の膝の上に、容器に入ったたこ焼きが置かれる。

綾桧は俺の隣に座り、カバンからさっき買った参考書を取り出した。
今度は内容を確かめるようにゆっくりぱらぱらっとページをめくっていく。



俺は黙ってたこ焼きの容器から輪ゴムを外すと、一番端っこのやつを口に放り込んだ。





「……化学?」


そう尋ねた俺の顔を訝しげに睨む綾桧。


「物理だよ物理。見て分かんない?」


「見てないもん」


『…現実を』


声が重なる。綾桧の口元がまたいたずらっぽく歪んだ。


「…あれ、でもお前化学とってなかったっけ?」


「ところが二次試験で物理も必要なんだなあこれが。…昨日気づいたんだけどね」



この世の終わりを悟った賢者のように遠い目をする綾桧。


まあ理科系の科目が苦手な彼女にとっては死活問題だろう。




「広太郎」


「ん」


「あーん」


綾桧の方を見ると、彼女は目を閉じて口だけ大袈裟に開いていた。

俺は少しだけ迷って、自分の口元に運ぼうとしていた爪楊枝を容器に戻し、もう一つの爪楊枝にたこ焼きを刺して綾桧の口に押し込んでやった。
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