純粋に狂おしく愛してる ー君が私を監禁した理由(ワケ)ー
 桐生さんは目を伏せた後、悲しそうに言った。


「──でも……別に、その人のことを考えていても構わない。一生俺のことを見てくれなくて、いい。彼女が生きている……それだけで、十分だ」


 桐生さん……アンタ、なかなかカッコイイことを言うんだな。でも、それってとてつもなく悲しい……。

 俺は何も言わなかった。静かに桐生さんの言葉に耳を傾け、悲しみの余韻に浸る。すると、突如桐生さんは俺の方を向いた。


「君は……いないのか? 恋人」


 ――っ?!

 な、なんだ?桐生さん……笑ってる?いや、自嘲か……?吸い込まれそうな妖艶な笑みに、冷や汗が流れ落ちた。


「い……や、いるにはいるんッスけど……今はちょっと、わけありで……いないッス」

「……ふーん?」

「喧嘩とかじゃないッスよ?!……誘拐、されたんッス」


 ──俺には“普通”が分からない。

 意味は分かる。けど、“その人の普通が俺にとっては異常”かもしれない。逆もしかり。だから、その人の普通が分からない。

 普段の生活の中で、俺は“自分の中の普通”を押し付けたことはないし、押し付けられるのも好きじゃない。

 ──けれど俺は、次の瞬間、桐生さんの中の“普通”を疑った。
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