純粋に狂おしく愛してる ー君が私を監禁した理由(ワケ)ー
 ずるずるずるずる。左の眼球を引きずり出して、水が溢れかけている排水溝に投げ捨てる。

 ──殺された春香に比べたら、痛みなんて、感じない。

 ふらふらと揺れながらも歩き出した俺の頭の中に、とある1つの言葉が埋めつくしていく。

 ──俺も死ななくちゃ。

 その、言葉が。

 俺も死ななくちゃ。春香のもとに逝かなくちゃ。死んで償わなければ。会って謝らなくちゃ。春香を抱きしめてやらなくちゃ。春香を守らなくちゃ。春香を。春香を。春香を……。


「……はる……か……はるか……春香……春香……春香……春香……春香……春香……」


 どのくらい雨の中を歩き回っていたのかは分からない。気が付いたら俺は、“碧の森”という喫茶店の前にいた。


(……あおの……もり……)


 運が良いのか悪いのか、喫茶店の扉が開く。中から出て来たのは、白髪をオールバックにした紳士的な雰囲気を漂わせる男性だった。

 この喫茶店の店長……さしずめ、マスターといったところだろうか。どこかへ出掛けようとしていたんだと思う。


「大丈夫かいっ?!」


 俺の姿を見るや否や、雨には怯まずに俺のもとへ走り寄ってきたその人は、持っていた傘を俺の頭上で広げた。
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