【完】空とキミ ‐十朱 朔也‐
「おーい、朔也ー」
「え?」
龍輝が手を振りながら駆けてくる。
その手には、俺の携帯…。
「マコっちゃんが話したいって」
「………」
「5分後に電話来るからちゃんと出ろよー? んじゃ、またな!!」
俺に携帯を握らせて、龍輝はあっという間に行ってしまった。
「…電話、ね」
…切ったのはそっちだろ。
それなのに、なんでかけてくる?
♪〜♪〜♪〜
……5分じゃなくて1分でかかって来てるんですけど。
「…もしもし?」
『あぁ朔也? さっきはごめんねー。
急にあんなこと言うからビックリしちゃってさぁ、思わず切っちゃったよー』
「…あぁ、そうですか」
いつもとまったく変わらないマコが電話の向こうで笑ってる。
……そんな声を聞いてると、本当に自分の言ったことが馬鹿らしく思う。
「…話はそれだけ?
外歩いてるから、もう切るよ」
…切ったらまた、マコの番号を拒否しよう。
もう疲れた。
マコの明るい声は、もう聞きたくない。
そう思ったけれど。
『あのね、朔也。
私ね、凄く嬉しかった』
さっきまでとは少し違う、落ち着いた声が響く。
『私も幸せだった』
その瞬間、世界中のすべての音が消えたような気がした。
『ありがとう』
マコの声だけが、ただ静かに響く。