禁断の実
「何考えてる?」

 情事の後、ベッドの上で、行儀悪く瓶ビールに口をつけて飲んでいた課長が、ふと私に視線を送る。艶を帯びた低い声が心地よく耳に染みる。



「大したことじゃ、ありません」

 ついでに言うと、ビールはそのまま飲み続けていてほしい。折角そっと眺めていたのに。私は、彼の低い声とそれを作り出している大きな喉仏が堪らなく好きなのだ。


 部下を叱責するときに動く喉仏。
 コーヒーを飲むときに動く喉仏。



 本人には口が裂けても告げる気はないけれど、たぶん私は彼の喉仏に一目ぼれしてしまったのだ。
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