桜の咲く頃に
「あなたがウインドライダー君よね。あたし『悩める子羊たち』の管理人のメリーラム」
 ウインドライダーの顔をじっと見つめながら言う。
 道ですれ違えば誰もが思わず振り返り一瞬見惚れてしまうほどのイケメンぶりだから無理もない。 
「さて、みなさん、紹介するわ。今夜オフ会初参加のウインドライダー君」
 メリーラムがゆるふわなロングヘアを一振りし、みんなをぐるりと見回して言う。
月光を浴びた、赤みがかった茶髪は、幻想的な雰囲気を醸し出し、目の上ぎりぎりの重めの前髪が、瞳の印象を強くしている。
 それまで思い思いの場所で思い思いの姿勢でたたずんでいた連中が集まってくる。
「最近ちょくちょくサイトに顔出してるので、みなさん『ウインドライダー』ってコテハン知ってますよね。ところで、真冬なのに滝凍ってないんですね。とりあえずよろしくお願いしま~す」
「滝壺の周りは凍ってるそうだけど、水量があるから全部凍るのはなかなか難しいんだって。さて、迎えに行ってここまで連れてきてくれたコールドブラッド君とはもう知り合いになれたよね? じゃあ、そこの彼が、サイト開設以来オフ会の企画・運営を手伝ってくれてるハングマン君。もうそろそろ君の番かなって思うんだけど、今夜あたりどうかな?」
「今夜生きて帰る奴はそこに転がってる空き缶拾って持って帰って、ちゃんとごみ箱に捨てるんだぞ」
 痩せこけた長身の学生っぽい男が、みんなに向かって唐突に言う。
 長過ぎて重そうな感じの前髪の奥から覗く瞳が、冷たい光を放っている。
 ふと目が合った瞬間、ウインドライダーはあわてて逸らした。何かを見ているようで実は何も見ていない、そんな視点の定まらない目だった。
 ふっと一息ついて、ハングマンは続けた。   
「いや、俺としては、サイト管理人の最後を看取らないことには、死んでも死に切れないっていうか……」
「そう言われれば、ハングマン君のフォローがなかったら、あたし精神的に参ってたかも。記憶が飛ぶっていうか、気が付かないうちに時間が過ぎてるってことちょくちょくあるから……そのうちあたしの番が来るから、そん時はあたしの意思を受け継いで、誰かサイト続けてよね。死のう死のうと思っても、なかなか実行に移せない、そういう悩める子羊たちを救おうっていうのが、サイト開設の趣旨だった。そもそもあたし自身がそういう子羊の1匹だったから、一人で悩むよりみんなで悩んだほうが楽かなって思って……オフ会は、逝きたい人だけ送って、さっさと終わっちゃうことが多いんだけど……」
 メリーラムは一瞬間を置いて、続ける。
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