桜の咲く頃に
 リガルドは、キャメルのダッフルコートのトグルを一つ一つ外し始める。
 やがて水色のケミカルウォッシュジーンズにタックインされた、グラデーションチェック柄の青のネルシャツがあらわになる。
 脱いだハイテクっぽい黒のスニーカーを手に持って、滝の落ち口へ一歩一歩、慎重に足を進める。
 スニーカーをきちんとそろえると、何か忘れ物でもしたのか先ほどまで佇んでいた場所に戻る。再び姿を現したときには、何か長い物をを両手でしっかり握っていた。
 濃さを増しつつある夕闇の中で妖しげな光を放つ大剣を、リガルドはさっと天へと掲げる。人生最後の晴れ舞台だというのに、重さに耐えかね腕がぶるぶる震え出し、横顔が苦痛に歪む。
 一同じっと息を殺して見守る。
 チェリーフラワーは、繋いでいたウインドライダーの手を強く握り締める。
 時が止まったかのように空間が張りつめる。
「うわあああーっ!」
 飛び込む体制も取れないまま、断末魔の叫びを残して、リガルドは滝壺目がけて落ちていった。
 ウインドライダーとチェリーフラワーはその場に立ち尽くす。
 リガルドが味わった恐怖は二人の心の奥底に沈殿していき、漆黒の澱みを作り出していく。
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