桜の咲く頃に
メリーラムに支えられ、かろうじて車椅子から立ち上がる。
足ががくがくと震え出す。
覚悟を決めたウインドライダーは、両腕を左右に大きく広げた。
冷たい風が頬の横を通り抜けていく。
人生最後の瞬間、ウインドライダーのコテハン通り風に乗ってみせるぞ!
心の中で叫んだ。
不意にコールドブラッド、クイーンクリムゾン、そしてリガルドの横顔が脳裏をよぎる。
それと同時に、あの時彼らが残していった恐怖が甦る。
「スリッパ脱いでちゃんと揃えてくれたよね? 遺書も置いてあるよね?」
少しばかりハスキーな声に現実に引き戻された。
「ああ、言われたとおりにしたよ」
「あ、それから、あの和菓子屋の桜餅食べたよね?」
「え」
予期せぬ質問に一瞬たじろいだ。
こんな時に何を言い出すんだ? どうしてそんなことまで知ってるんだ?
思わず振り返った瞬間に、メリーラムと目が合った。
無表情な瞳に妖しい光が宿っていた。
「桜の葉も一緒に食べた?」
恐る恐るうなずいたウインドライダーの背中を、メリーラムは思いっきり蹴り飛ばした。
「ひやあ~」
奇妙な悲鳴を残しながら、ウインドライダーの体は漆黒の深い闇の中へと消えた。
「ったく、しようがないわねえ。ここしばらく下に行ってなかったから、ついでにどうなってるか見に行くとすっか」
にやにやと薄笑いを浮かべながらスリッパと遺書をさっさっと片付けると、慎重に滝壺へと下り始める。階段などの整備も全くされていないので、かなりの急坂だ。まずどうにか滝を正面に見られる展望スポットにたどり着く。ほっと息つく間もなく、今度はさらに急な坂をロープを伝って下りていく。広場のような所に出た。
真近かに見られる滝壺を懐中電灯で照らす。
白い泡の中から何か白い物が浮き上がってきている。どうやら白い花びらのようだ。近くに咲いている花が散って滝壺に落ちたのかもしれない。
でも、白い花を咲かせている木や植物など、懐中電灯でどこを照らしても見つからない。
じっと目を凝らして滝壺を見ているうちに、心臓が凍りつきそうな戦慄が体の奥から沸き上がってくるのを感じた。
白い花びらに見えた物は、おびただしい数の青白い手首が先を競って水中から伸びている姿だった、メリーラムを死の淵に引きずり込もうとするかのように……。
「ふふふふふ。邪悪な浮かばれないものたちよ。今頃、ウインドライダーは、あの手首たちの餌食にでもなってるのかしら」
不気味な笑みを浮かべて、足早に離れていく。
揺れる背中を蹴り飛ばした感触が、まだ足の甲に残っていた。
足ががくがくと震え出す。
覚悟を決めたウインドライダーは、両腕を左右に大きく広げた。
冷たい風が頬の横を通り抜けていく。
人生最後の瞬間、ウインドライダーのコテハン通り風に乗ってみせるぞ!
心の中で叫んだ。
不意にコールドブラッド、クイーンクリムゾン、そしてリガルドの横顔が脳裏をよぎる。
それと同時に、あの時彼らが残していった恐怖が甦る。
「スリッパ脱いでちゃんと揃えてくれたよね? 遺書も置いてあるよね?」
少しばかりハスキーな声に現実に引き戻された。
「ああ、言われたとおりにしたよ」
「あ、それから、あの和菓子屋の桜餅食べたよね?」
「え」
予期せぬ質問に一瞬たじろいだ。
こんな時に何を言い出すんだ? どうしてそんなことまで知ってるんだ?
思わず振り返った瞬間に、メリーラムと目が合った。
無表情な瞳に妖しい光が宿っていた。
「桜の葉も一緒に食べた?」
恐る恐るうなずいたウインドライダーの背中を、メリーラムは思いっきり蹴り飛ばした。
「ひやあ~」
奇妙な悲鳴を残しながら、ウインドライダーの体は漆黒の深い闇の中へと消えた。
「ったく、しようがないわねえ。ここしばらく下に行ってなかったから、ついでにどうなってるか見に行くとすっか」
にやにやと薄笑いを浮かべながらスリッパと遺書をさっさっと片付けると、慎重に滝壺へと下り始める。階段などの整備も全くされていないので、かなりの急坂だ。まずどうにか滝を正面に見られる展望スポットにたどり着く。ほっと息つく間もなく、今度はさらに急な坂をロープを伝って下りていく。広場のような所に出た。
真近かに見られる滝壺を懐中電灯で照らす。
白い泡の中から何か白い物が浮き上がってきている。どうやら白い花びらのようだ。近くに咲いている花が散って滝壺に落ちたのかもしれない。
でも、白い花を咲かせている木や植物など、懐中電灯でどこを照らしても見つからない。
じっと目を凝らして滝壺を見ているうちに、心臓が凍りつきそうな戦慄が体の奥から沸き上がってくるのを感じた。
白い花びらに見えた物は、おびただしい数の青白い手首が先を競って水中から伸びている姿だった、メリーラムを死の淵に引きずり込もうとするかのように……。
「ふふふふふ。邪悪な浮かばれないものたちよ。今頃、ウインドライダーは、あの手首たちの餌食にでもなってるのかしら」
不気味な笑みを浮かべて、足早に離れていく。
揺れる背中を蹴り飛ばした感触が、まだ足の甲に残っていた。