桜の咲く頃に
「いやあーっ!」
千佳は振り返って周りを見回した、加恋の悲鳴に重なって、もう一人の悲鳴が聞こえたような気がしたから。
「千佳、これって、まさか血?」
折れた枝の傷跡から染み出ている赤い液体が、加恋の腕に滴り落ちていた。
目の前の加恋の顔からみるみる血の気が引いていく。
血も凍るような戦慄が千佳の背中を駆け抜けた。
どこからか話し声が聞こえてきたのは、その時だった。間もなくそれが二人が来た道の方から近づいてくることがわかった。徐々に声が大きくなってくる。
二人は顔を見合わせると、桜並木から道を挟んで反対側の藪の中に逃げ込んだ。
「加恋、あの女の声聞き覚えがあるよ。神園阿梨沙の姉だよ。想像していたよりイケてるけどね」
すらっとしたスタイルの女が、男二人に伴われて姿を現した。
女は、2段フリルのワンピース風トレンチコートを羽織っている。ラメタイツも、金バックルとベルト付きくしゅくしゅブーツも、コート同様黒だ。大人っぽい、フェミニンな雰囲気を漂わせている。
「今から何をするのかしら、集合時間までまだだいぶ時間があるのに? 本当は今出ていって、彼女に話し掛けたいけど……」
加恋は声を潜める。
「しー! それは、危険過ぎるって。しばらくじっと様子を見守るしかないよ」
千佳も聞こえるか聞こえないかの声で答える。
二人の男たちは運んできた足台を無造作に地面に置く。女は黒のボストンバッグの中から縄とはさみを取り出している。女が縄を切ると、男たちは台に乗って、適当な枝に縄を結んで先端に輪を作っている。
枝が揺れる度に花びらが雪のようにひらひらと舞い落ちる。
「千佳、あれって……」
加恋の口から震える声が洩れた。
「わっか……やっぱり死ぬんだ」
千佳は恐怖に怯える表情でうなづく。
「今日の参加者はあたしを除いて4人だったよねえ。念のため四つ用意しとくっか。あたしはまだだからね」
心なしかハスキーな女の声が響いてきた。
「4人死ぬかもしれないってこと?」
加恋がぽつりと洩らす。
縄が四つ吊るされた頃、残りの参加者二名が到着した。
二人の女子高生の緊張は否が応にも高まる。
「え、見てごらんよ。あの女って失踪中の立花麗香だよ」
千佳が信じられないといった表情で目を見開いている。
「願ってもないチャンス。後で彼女に話し掛けよう」
加恋がそう囁いたとき、オフ会が始まった。
「それじゃ、早速始めましょう。皆さ~ん、集まって。あたしが『悩める子羊』の管理人のメリーラム。すぐそこまで夜の帳が下りてきてるので、急ぎましょう! オフ会の後、山を出る人がいるかもしれないし……」
「と言うことは、生きて帰る人もいるかもしれないってことだ」
千佳の口から安堵の溜め息が洩れる。
「でも、あんまし長く続かないと、いいけどね」
加恋の声が不安気に揺れる。
千佳は振り返って周りを見回した、加恋の悲鳴に重なって、もう一人の悲鳴が聞こえたような気がしたから。
「千佳、これって、まさか血?」
折れた枝の傷跡から染み出ている赤い液体が、加恋の腕に滴り落ちていた。
目の前の加恋の顔からみるみる血の気が引いていく。
血も凍るような戦慄が千佳の背中を駆け抜けた。
どこからか話し声が聞こえてきたのは、その時だった。間もなくそれが二人が来た道の方から近づいてくることがわかった。徐々に声が大きくなってくる。
二人は顔を見合わせると、桜並木から道を挟んで反対側の藪の中に逃げ込んだ。
「加恋、あの女の声聞き覚えがあるよ。神園阿梨沙の姉だよ。想像していたよりイケてるけどね」
すらっとしたスタイルの女が、男二人に伴われて姿を現した。
女は、2段フリルのワンピース風トレンチコートを羽織っている。ラメタイツも、金バックルとベルト付きくしゅくしゅブーツも、コート同様黒だ。大人っぽい、フェミニンな雰囲気を漂わせている。
「今から何をするのかしら、集合時間までまだだいぶ時間があるのに? 本当は今出ていって、彼女に話し掛けたいけど……」
加恋は声を潜める。
「しー! それは、危険過ぎるって。しばらくじっと様子を見守るしかないよ」
千佳も聞こえるか聞こえないかの声で答える。
二人の男たちは運んできた足台を無造作に地面に置く。女は黒のボストンバッグの中から縄とはさみを取り出している。女が縄を切ると、男たちは台に乗って、適当な枝に縄を結んで先端に輪を作っている。
枝が揺れる度に花びらが雪のようにひらひらと舞い落ちる。
「千佳、あれって……」
加恋の口から震える声が洩れた。
「わっか……やっぱり死ぬんだ」
千佳は恐怖に怯える表情でうなづく。
「今日の参加者はあたしを除いて4人だったよねえ。念のため四つ用意しとくっか。あたしはまだだからね」
心なしかハスキーな女の声が響いてきた。
「4人死ぬかもしれないってこと?」
加恋がぽつりと洩らす。
縄が四つ吊るされた頃、残りの参加者二名が到着した。
二人の女子高生の緊張は否が応にも高まる。
「え、見てごらんよ。あの女って失踪中の立花麗香だよ」
千佳が信じられないといった表情で目を見開いている。
「願ってもないチャンス。後で彼女に話し掛けよう」
加恋がそう囁いたとき、オフ会が始まった。
「それじゃ、早速始めましょう。皆さ~ん、集まって。あたしが『悩める子羊』の管理人のメリーラム。すぐそこまで夜の帳が下りてきてるので、急ぎましょう! オフ会の後、山を出る人がいるかもしれないし……」
「と言うことは、生きて帰る人もいるかもしれないってことだ」
千佳の口から安堵の溜め息が洩れる。
「でも、あんまし長く続かないと、いいけどね」
加恋の声が不安気に揺れる。