桜の咲く頃に
だが、ハヤトは黒のベンチコートをさっさと脱ぎ捨て、ブラスナックルをはめていた。
「ちょっと、そこの小悪魔ギャルちゃん、そんな目で俺を見ないでくれ! 俺は俺らしく最後を飾りたいんだ」
蒼白を通り越して真っ白になった顔から、突然言葉が発せられた。
タツヒロはフードを左手で後ろに跳ね除ける。現れたのは、ぼさぼさの髪と伸びっぱなしの無精髭に覆われた、ハヤトに負けないくらい真っ白な顔だった。
「俺も同感。哀れみなんていらない」
チェリーフラワーは慌てて目をそらす。
「さあ、皆さん一緒に! まずハングマン二世のお手本から」
メリーラムの掛け声で体操が始まる。
深呼吸を繰り返し、しばらくしゃがんでから急に立ち上がり、高速スクワットをする。
女子高生二人は、信じられないといった表情で、成り行きを見守っている。
「こんな時に、一体何のために体操なんかやってるのかしら?」
「見てごらんよ、加恋。ふらふらしてるよ。まともに立っていられないみたいよ」
「そっかあ。ああいうことしておくと、きっと意識が飛びやすいんだよね」
一同がじっと息を殺して見守る中、体操を終えたタツヒロとハヤトは、ぶらりと垂れ下がる縄の下へ歩み寄り、何のためらいもなく足台に乗り、誘い込まれるようにわっかに首を入れた。
足台を蹴り倒すと、首がどんどん絞まっていく。予想通り、あっという間に意識が喪失した。
二人の体が、ぶらり、ぶらりと揺れている、股間から生暖かい液体を垂らして。
「え、あんなに簡単に死んじゃうもんなんだ……死への恐怖なんてなかったのかなあ」
「そうかもね……」
女子高生二人の顔からすっかり血の気が失せていた。
桜の花びらのようにはかなく散っていった二人の恐怖が、残された二人の心の奥底に沈殿していき、漆黒の澱みを作り出していく。
わざと視線をそらすように、メリーラムは終始うつむいたままだった。
「じゃ、ハングマン二世、後は頼んだわよ」
帰り支度をしているメリーラムの背に、黒のトレンチコートの男が声を掛ける。
「神園さん、御無沙汰してます」
「加藤さんでしたっけ? 先週、久し振りにメールいただきましたね。『里緒奈』って呼んでくださいな、ここじゃ『メリーラム』ですけど」
「あ、そうでしたね。富山がお役に立っているようで何よりです。彼はこの間亡くなった前任者と同じ病棟に入っていた者ですが……」
「首を吊ってから絶命するまで10数分かかるので、しばらくあのままにしておかないと……その間に誰かに発見されて救助されないように、陰で見張っててもらうんですよ。今の状態で救助されでもしたら、一生重い後遺症を背負って生きていくことになりかねないので」
「ちょっと、そこの小悪魔ギャルちゃん、そんな目で俺を見ないでくれ! 俺は俺らしく最後を飾りたいんだ」
蒼白を通り越して真っ白になった顔から、突然言葉が発せられた。
タツヒロはフードを左手で後ろに跳ね除ける。現れたのは、ぼさぼさの髪と伸びっぱなしの無精髭に覆われた、ハヤトに負けないくらい真っ白な顔だった。
「俺も同感。哀れみなんていらない」
チェリーフラワーは慌てて目をそらす。
「さあ、皆さん一緒に! まずハングマン二世のお手本から」
メリーラムの掛け声で体操が始まる。
深呼吸を繰り返し、しばらくしゃがんでから急に立ち上がり、高速スクワットをする。
女子高生二人は、信じられないといった表情で、成り行きを見守っている。
「こんな時に、一体何のために体操なんかやってるのかしら?」
「見てごらんよ、加恋。ふらふらしてるよ。まともに立っていられないみたいよ」
「そっかあ。ああいうことしておくと、きっと意識が飛びやすいんだよね」
一同がじっと息を殺して見守る中、体操を終えたタツヒロとハヤトは、ぶらりと垂れ下がる縄の下へ歩み寄り、何のためらいもなく足台に乗り、誘い込まれるようにわっかに首を入れた。
足台を蹴り倒すと、首がどんどん絞まっていく。予想通り、あっという間に意識が喪失した。
二人の体が、ぶらり、ぶらりと揺れている、股間から生暖かい液体を垂らして。
「え、あんなに簡単に死んじゃうもんなんだ……死への恐怖なんてなかったのかなあ」
「そうかもね……」
女子高生二人の顔からすっかり血の気が失せていた。
桜の花びらのようにはかなく散っていった二人の恐怖が、残された二人の心の奥底に沈殿していき、漆黒の澱みを作り出していく。
わざと視線をそらすように、メリーラムは終始うつむいたままだった。
「じゃ、ハングマン二世、後は頼んだわよ」
帰り支度をしているメリーラムの背に、黒のトレンチコートの男が声を掛ける。
「神園さん、御無沙汰してます」
「加藤さんでしたっけ? 先週、久し振りにメールいただきましたね。『里緒奈』って呼んでくださいな、ここじゃ『メリーラム』ですけど」
「あ、そうでしたね。富山がお役に立っているようで何よりです。彼はこの間亡くなった前任者と同じ病棟に入っていた者ですが……」
「首を吊ってから絶命するまで10数分かかるので、しばらくあのままにしておかないと……その間に誰かに発見されて救助されないように、陰で見張っててもらうんですよ。今の状態で救助されでもしたら、一生重い後遺症を背負って生きていくことになりかねないので」