桜の咲く頃に
 明かりを落とした部屋の中で、時計の針が秒を刻む音だけが響いている。
 千佳は「行方不明者捜索」で検索を始める。検索結果一覧の一番上に出てきたサイトをクリック。
「行方不明者捜索チャンネル」というサイトが表示される。
 思った通り行方不明者の捜索をサポートしているサイトがあったんだ!
 千佳は「やったー」と心の中で叫んでいた。
 画面をスクロールし、失踪者の写真をクリックすると、身体的特徴や失踪時の状況といった詳細な情報が現れる。
「心配してます。1日も早く連絡ください。皆様からの情報をお待ちしています」
 どれもこれも似たようなメッセージが添えられている。
「これに違いない! こんなに簡単に見つかるなんて信じられない! 本名も知らなかったのに」
 思わず声が出た。
 イケメンは携帯の写真よりまじめな表情で写っている。名前は古宮翔太という。失踪時期は1ヶ月前になっている。
 他にどんな人が行方不明になっているのか好奇心に駆られて画面をスクロールしているうちに、凍りついた。
 彼女がいたのだ。失踪時期は1年前だ。名前は立花麗香という。
「これってどういうことよ! 何かの間違いじゃないの! 彼は彼女に何度も電話してるのよ! ツーショットだって何枚かある! 失踪中の彼女に彼が出会って、その後、彼も失踪したとでも言うの? 訳わからないよー」
 真夜中だというのに思わず叫んでしまった!
「掲載を御希望の方へ」というコーナーに但し書きがある。
「このページに掲載されている行方不明者は、警察に捜索願が出ている方のみです」
「捜索願」を検索エンジンに掛けてみると、以外な情報が得られた。
 犯罪・事故に巻き込まれた可能性のある者、自殺の可能性のある者、幼児・病人・高齢者以外の普通の行方不明者は、警察本部のデータベースに情報が登録されるだけで、特別な捜査活動は行われない。
 そんなもんか。考えてみれば、しばらくすると何事もなかったかのようにふらりと帰ってくるかもしれない家出人を、警察が本腰入れて捜す必要もないか。じゃあ、一般市民が捜すことができるのだろうか?
 そんなことを考え始めると、前のサイトに戻るしかなかった。
 行方不明者を捜索する者の視点でサイトを見直すと、行き詰ってしまった。
 行方不明者の失踪時の住所、学校名などの情報がない。行方不明者の家族に直接コンタクトすることもできない。
 探偵ごっこもここまでか。
 失望の色が千佳の顔を横切る。
 悔しい気持ちでパソコンを終了させた。

 
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