好きにならないで。
いや、抵抗する気力さえもなかったんだ
あたしが解放されたのは誘拐されて一週間たった後だった
―――――――――――
――――――――
―――――
「男は気に入らないことがあったらすぐあたしを殴ったり蹴ったりしてたんだ」
「………うん」
「それ、にっ…」
「…もういい」
「ほんっとは…っ…」
「もういい!!」
五十嵐くんはそう言ってきつく抱き締めてくれた
だけど、全然苦しくなくて…
むしろ、すごく落ち着いた
すこし時間がたって、五十嵐くんはあたしから離れようとした
「……!?」
目を見開いて驚いた表情をする彼
だけど、それ以上に驚いているのはあたしだった
無意識に五十嵐くんの服をギュッと握ってしまった
あまりの恥ずかしさに顔が真っ赤になった
それでも、“離れたくない”と思う自分がいた
何も言えなくて顔を下に向けた
服は握ったまま
すると、頭の上から
ふっ…という声が聞こえた
顔を上げようと上を向こうとした瞬間
フワッと抱きしめられた
その時ほのかに爽やかな匂いが鼻を掠めた
香水かな?って思ったけど…
どうやら違うらしい
「香水してる?」って聞いたら
「してない」と言われたから
そうなんだ
と思った