右手に剣を、左手に君を
もう、彼等は何も言って来なかった。
俺達は振り返らないようにして、その場を後にした。
「コウくん、どこまで行くの?」
渚に言われ、我に返る。
目の前には校門があった。
そういえば、教室に鞄を置いたままだ。
雅も健太郎もいない。
「あー……戻らなきゃな……」
方向を変え、教室に歩き出す。
「あわてんぼうさんだねぇ」
のんびりした渚の声に、イラッとした。
「お前がボヤボヤしてるからだろ!」
「ふぇっ」
「一人になるなよ。
“させるって、何を?”じゃないだろ!」
「だ、だって、現代語って何でもかんでも略してて、わかんないんだもん!」
……確かに。
って、違う違う。
「あいつ……野田はな、お前と契(チギ)りたいって言ったんだ」
渚にもわかりそうな表現を使ってやった。
すると、彼女は一瞬固まって……。
「のわああああああ!?」
と、叫んだ。
「ち、ちぎ……っ」
顔を真っ赤にし、口をパクパクさせている様子は、
龍じゃなくて金魚だ。
「なな、なんで、歌のやりとりもしてないのに……」
「今はそんなの、しない。
メールはするけど」
「めぇる?」
「あー……とにかく、誰にも油断するな。
一人でいたら、無理矢理やられるぞ」
「ひえぇぇ~……」
渚は今度は真っ青になって、ぷるぷる震えた。
少し可哀想だったが、これくらい言っておいていいだろう。
大体、危機感がなさすぎるんだ。