右手に剣を、左手に君を
「……」
頬に湿気を感じて、まぶたが開いた。
「は……?」
布団の上で、ゆっくり身体を起こす。
視界が歪んで、目をこすると。
何故か水滴が、手の甲についていた。
頬に感じた湿気も、同じものだと気づく。
俺は、夢を見て泣いていたのだ。
「渚……」
隣を見ると、まぶたを閉じたままの渚が、安らかな寝息を立てていた。
部屋には朝日が射し込んでいる。
体育館での戦いの後倒れた渚は、高熱を出していた。
もう、三日目になる。
ばあちゃんによれば、いきなり神の力を人間の姿のまま、
膨大に放出したのが原因らしい。
簡単に言えば、オーバーヒート。
傷の手当てだけでなんとか動けた俺は、どうしても彼女を放っておけず。
学校を休んで、渚に付き添っていた。
「熱……下がったか?」
昨晩から額に貼っていた冷却シートをはがしてやる。
顔を近づけ、額どうしをくっつけた。
すると、昨夜まで熱かった渚の額から、安心感のあるぬくもりが伝わってきた。
「良かった……」
熱が下がれば、一安心だろう。
額を離した俺は、彼女の寝顔を見つめた。
すると……。
「……だ、のぶ、さま……」
桜色の唇が、小さくそうつぶやいた。
忠信様。
俺の先祖の名前を。
恋焦がれた、昔の恋人の名前を。