右手に剣を、左手に君を


「じゃー、また明日なー」


「俺達はこの辺りの見回りをする。

何かあったら、すぐに呼ぶから」



いつも別れる帰り道の十字路で、健太郎と雅が言った。


俺と渚は病み上がりだから、という理由で、神社に帰るようにばあちゃんに言われている。


潮風の吹く道を、二人並んで歩いた。


高台にある神社に続く道からは、今日も荒れている海が見える。


昔は穏やかな、綺麗な海だったのに。



「コウくん?」


「ん?」


「何考えてたの?」


「別に」



こちらをのぞきこんでくる渚に、笑って返す。


そう。


いつかは、離れなきゃいけない。


そうなら、なるべく笑っていよう。


そう思っていたのだけど……。



「ニヤニヤして……米倉さんの事でも思い出したの?」



と、渚は全く可愛くない受け答えをした。



「は?米倉?」


「あ、あの人、私、嫌い。

簡単に、一回だけ、ち、契ってもいいなんて、おかしい」



今朝の事を思い出したのか、渚は赤くなってぷるぷる震えた。


あぁ、そうだろうな。


平安時代から一夜限りの関係という事はあっただろうが、

女から誘うというのは、なかなか難しかったかもしれない。



「現代の子って、皆そうなの?

そんな事ばっかり考えてるの?」


「それは、人によるだろ。

今より娯楽が少なかったぶん、昔の方がそんな事ばっかりしてたんじゃないのか?」


「そ、そんなことないもん!」


渚は必死になって、否定した。


こちらは何も言ってないのに、自分と忠信の事を言われたと思ったのだろう。


それがなんとなく伝わってきて、おもしろくなかった。








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