右手に剣を、左手に君を
「とにかく、米倉は俺をからかっただけ。
お互いに何とも思ってないよ」
何故か、彼女に弁解するような感じになってしまった。
渚はふぅんとつぶやいて、足下の石ころを蹴飛ばす。
しかし空振りして、不安定に身体が揺れた。
「ふわぁ」
俺はとっさに、その身体を左手で支えた。
「……マヌケ」
この前の戦いが、嘘のように。
渚は小さな身体の、普通の女の子だった。
「ご、ごめんね……」
体勢を整えた渚は、パッと俺から離れた。
……最近、本当にくっついてこなくなったな。
「……身体は、もう大丈夫なのか?」
「あ、うん……ありがとう。
おばあ様に、聞いたよ。
コウくん、ずっとついててくれたって」
「あー……」
ばあちゃん、余計な事言うなよ。
年寄りだから、話し相手がほしいのはわかるけどさ……。
「だから、早くお礼を言おうとして学校へ行ったのに、
米倉さんと楽しそうにしてるんだもん」
???
それと米倉と、何の関係が?
疑問に思いながら、勘違いを訂正していこうと口を開く。
「だから、からかわれただけだって」
「別に、良いんだけどね。
コウくんが誰と仲良くしようと。
人間じゃない私には、関係ないもん」
「……何だよ、それ……」
意味がわからない。
しかも。
若干、ムカつく。
関係ないか。あぁ、そうかよ。
「……どう思おうと、勝手にしろよ」
渚を放って、一人で先に歩き出す。
数歩行くと。
「バカ!」
後ろから、声と水滴が後頭部に飛んできた。
パシャ、と音を立てたそれは、渚の小さな攻撃。
水は俺の髪をつたい、首筋に流れた。