右手に剣を、左手に君を



「つっ、めて……っ」



冷たさと怒りが、背中を通り抜ける。



「何なんだよっ!

白昼堂々、水出すなっ!」


「~~~っ、ぶぅぅ~っ」


「文句があるなら、ハッキリ言えよ!

俺が何した?なぁ!」



振り返って早口でまくし立てる俺に、渚は無言の抵抗。


そのうち、その顔が赤くなり、目は涙をためた。



「おい……」



タチの悪いヤツだな……。


途方に暮れていると、彼女は小さくこぼした。


微かに聞き取れるか、聞き取れないかくらいの音量で。



「……他の女の子と、仲良くしないで…」


「……?」


「私がいる間は、私を見て。

この世界で、私は一人じゃないって、信じさせて……

コウくんだけは……」



渚の声は、震えていた。


その声が、俺の胸をしめつける。



「……大丈夫だ、一人になんかしない」



気づけば、そんな言葉が口から滑り出していた。


それを聞いて、渚はとうとうこらえていた涙を溢れさせる。



「ごめんね……。
ごめんね、ごめん」


「大丈夫だから……」


「戦いが終わったら、海に帰るから。

それまで、だから……」



苦しくて、息がしにくい。


どうしてだろう。


渚が泣いていると、いつもそうだ。


俺は彼女の小さな手をにぎった。



「……帰らなくていい。

好きなだけ、いればいい。

俺は……お前以外、見ないから……」


「コウくん……」


「約束する」



そこまで言って、渚はやっと小さくうなずいた。


ごめんね、とつぶやきながら。



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