右手に剣を、左手に君を
健太郎や雅は居間で、
渚は自分の部屋となっている客間で寝てしまった。
俺もばあちゃんの部屋でうとうとしてしまっていたのだが……。
目の前の布団がごそりと動く音に、目覚めさせられた。
「ばあちゃん……?」
「恒一……」
ばあちゃんは横になったままだが、しっかりと俺の方を見た。
その表情に、少し安心する。
「私は……」
「書庫で倒れてたんだよ。
渚が霊力で癒してくれた。
過労じゃないかって」
「姫様が……そうか……」
ばあちゃんはうなずく。
そして、ゆっくり上体を起こそうとするので、俺は背中を支えた。
思っていたより、小さくて薄い背中だった。
「恒一……龍神剣の話は、もう皆にしたかい?」
「いや、それどころじゃなかったよ。
ばあちゃんのせいだからな」
「そうか……良かった……」
良かった?
安心した顔のばあちゃんは、俺のキョトン顔を見て、苦笑した。
「皆に話すべきか、まだ迷っていたんだ……。
だけど私ももう歳だ。
いつ、何があるかわからない。
だからお前にだけは、早めに話しておくよ」
その声は穏やかで、いつもの強いばあちゃんとは別人のようだった。
そのせいでまた、俺の心臓が変な音を立てた。
「ばあちゃん……」
「いいかい、よく聞きな。
それでお前が何を選ぶかは、お前次第だ……」
俺の意思を無視して、ばあちゃんは見つけた資料の話をしはじめた。
千年前、空亡を封じた『龍神剣』のことを……。
しかし、その内容は信じられないものだった。
話が終わる頃には、頭がしびれ、ぼんやりしてしまっていた。
指先が痛み、胸がきしみ、涙を堪えるのがやっとだった。
「……すまないね。実はこの資料は、少し前に見つけたんだ。
だけど、お前にどうやって伝えていいかわからなかった」
話し終えたばあちゃんは、優しい顔で俺の頭をなでた。
まるで小さい子供にするように。
「……恒一。お前の好きなようにすればいいよ。
私は何の強制もできない。
お前が選びなさい」
そう言うとばあちゃんは立ち上がり、タンスの引き出しから、古い本のようなものを取り出した。
「ここに全てが書いてある。
お前が持っていなさい」
それを渡したばあちゃんの手は、血管が浮いて、シミやシワだらけだった。
同じようにシワの多い顔が、俺を慈しむように見つめる。
それは、これからさらなる苦難に立ち向かわなければならない俺への、
せめてもの優しさだった。
俺は黙って、その本をにぎりしめるしか、できなかった。