右手に剣を、左手に君を


「お手伝い、するね」



そう言った渚は、洗濯機がぐるぐる回るのを、じっと見つめていた。



「手ぇ入れるなよ。危ないから」


「はーい」



ばあちゃんが昔から使っている洗濯機は、家の庭にある。


もちろんドラム型なんてものじゃない。


洗濯槽(ソウ)と脱水槽が別になった、二槽式だ。


骨董品に近いこれも、いつかは買い換えなきゃならない。


俺はぼんやりと、初めてこの洗濯機を見た時のことを思い出した。


その時でさえ骨董品だったから、なんじゃこれと思ったんだっけ。


他にも掃除機は未だに紙パックだし、テレビはブラウン管。


地デジ化の時、町の電気屋でチューナーだけ注文したのはうちだけだろうか。


この家も、家具も何もかも、ばあちゃんと一緒で全てが古い。


何年か前、冷蔵庫が壊れた。


そうして、ひとつずつ使えなくなっていくのだろう。


人間もそうだ。


強そうに見えたって、容赦なく歳をとる。


いつまでも、同じままではいられない……。



「コーウくーん」


「のわ!!」



縁石に腰掛けてボーッとしていた俺を、突然渚がのぞきこんだ。



「び、ビビった……」


「ぼーっとしてたねぇ。心配事?」



……心配事しか、ないよ。


そう言ってやりたかったが、何とかこらえた。


昨日のばあちゃんの話がちらついて、渚の顔がちゃんと見られない。



「大丈夫」



それだけ答えると、渚はぷうと頬を膨らませた。



「うそつき」



しゃがんだまま俺を見上げた頬に、長いまつ毛が影を作る。



「大丈夫じゃないくせに」



桜色の唇が、少し尖って言った。


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